内側広筋は姿勢制御に重要な筋肉ですが、退行性変化に付随する臥床時間延長の影響を受けやすい筋肉です。
今回は内側広筋の作用と鍛え方・トレーニング方法に関して記載します。
目次
内側広筋の作用
大腿四頭筋は以下の4筋で構成されています。
・大腿直筋
・中間広筋
・内側広筋
・外側広筋
このうち内側広筋は大腿前面内側を走行します。
内側広筋の重要な作用の1つにスクリューホームムーブメント(SHM)があります。
SHMとは、膝関節を屈曲位から伸展させていき膝関節最終伸展域(15度~20度)に到達すると脛骨の外旋と大腿骨の内旋が生じる現象のことです。
内側広筋は大腿骨の内旋に大きく作用しSHMの完結を補助します。
SHMにより膝関節は完全伸展位で最も安定性が高くなります。
大腿骨遠位部は大腿骨外側顆より内側顆の関節面が大きく構造されています。
そのため膝最終伸展に伴い大腿骨と脛骨を回旋させないと骨同士(関節軟骨)が衝突し摩耗してしまいます。
SHMは関節軟骨の摩耗を予防する生理的機序として機能します。
また、内側広筋の筋収縮は膝関節伸展に作用します。
話が少し脱線しますが内側広筋の膝関節最終伸展域での筋活動に関しては否定的な意見も散見されています。
内側広筋の筋委縮はO脚形成を助長する
内側広筋が筋委縮しやすい理由
内側広筋は大腿四頭筋の中で赤筋繊維が多く白筋繊維が少ない特徴があります。
退行性変化に付随する臥床時間の延長や廃用症候群では白筋繊維よりも優位に赤筋繊維の萎縮が進行します。
上述した理由で内側広筋は筋委縮しやすい特徴があります。
一方で大腿直筋と外側広筋は白筋繊維が豊富なため筋委縮が生じ難いです。
内側広筋の筋委縮がO脚形成を助長する理由
膝関節を構成する関節の1つに大腿脛骨関節(大腿骨と脛骨間)があります。
大腿脛骨関節は構造上、骨性支持のみでは関節の脱臼を予防できません。
そのため大腿四頭筋を中心とする筋肉と前・後十字靭帯、内外側側副靭帯を中心とする靭帯で脱臼予防を図っています。
退行性変化で靭帯の補強力が低下すると大腿脛骨関節の脱臼リスクが増大します。
大腿脛骨関節の脱臼を予防するため筋肉を過緊張させ支持性を向上する戦略をとります。
内側広筋が筋委縮している分、支持性を担保するには白筋繊維が多い大腿直筋と外側広筋に過緊張が強いられます。
内側広筋の萎縮と外側広筋の過緊張は、股関節を外転・外旋させ大腿骨内側部と脛骨内側部に圧が集中します。
持続した大腿骨内側部と脛骨内側部の集中圧は関節軟骨摩耗を生じさせ膝関節の変形(O脚)を助長します。
内側広筋の鍛え方・トレーニング方法
内側広筋の筋トレ目的なら自転車エルゴメーター
内側広筋の筋力増強練習に1番適しているのが自転車エルゴメーターです。
自転車エルゴメーターの駆動は歩行と比較し3~5倍程度内側広筋が筋活動します。
また自転車エルゴメーターはサドルとペダルで体重分配するため膝関節にかかる負担を著減できます。
そのため変形性膝関節症など膝痛を有する疾患でも実施可能な場合が多いです。
自転車エルゴメーター後に膝痛が出現した場合、以下の4項目を調節することで疼痛が軽減することが多いです。
・負荷量
・時間
・回転数
・サドルの高さ
自転車エルゴメーターの設定や効果、臨床での使用感はこちらです。お時間があったら参照ください。
内側広筋の筋委縮予防目的ならパテラセッティング
パテラセッティングは、背臥位にて膝軽度屈曲位から最大伸展させることで内側広筋の筋委縮を是正する等尺性運動です。
パテラセッティングはOKC下の等尺性運動のため膝関節への負担が少ない特性があります。
そのため関節の炎症を抑えつつ筋委縮の改善を図る必要性が高い変形性膝関節症では特に重宝するアプローチです。
パテラセッティングの効果を高めるために以下の2つの事前準備をリハビリで行います。
①外側広筋の大腿直筋の過緊張を緩和し、内側広筋が停止する膝蓋骨の可動域を確保
②関節包の後方短縮とハムストリングスの過緊張を緩和し膝関節伸展の可動域を確保
内側広筋は膝伸展最終域で活動が高まるため膝伸展制限により筋出力が発揮し難くなることが理由です。
膝蓋骨と膝関節伸展の可動域を確保できたらパテラセッティングを実施していきます。
方法としては
①背臥位で膝下に丸めたタオルをいれます。
②大腿外旋位・膝軽度屈曲位のポジショニングをとります。
③その状態から、膝最終伸展位で5秒間保持します。
④上記の運動を1日当たり20~30回×2~3セット繰り返し行います。
注意点としてはパテラセッティングのみでは内側広筋の著明な筋力増強が図れない点です。
筋力増強には高負荷低頻度もしくは中負荷中頻度の運動が必要です。
パテラセッティングはあくまで膝関節の炎症を生じさせずに内側広筋の筋委縮を予防する目的で行うことが望ましいです。
パテラセッティングの詳細と効果を高める方法はこちらです 。
まとめ
内側広筋の作用と鍛え方・トレーニング方法に関して記載しました。
萎縮した内側広筋の筋力増強練習も大事ですが、赤筋繊維が豊富な内側広筋の場合いかに筋委縮を予防できるかの観点でアプローチしていくことが最も大切です。