分回し歩行の特徴と機序、問題点改善のリハビリ治療に関して

※脳卒中の症状は多岐にわたり、個別性が重要な疾患である為、あくまで数ある見解の内の1つという観点で読んで頂けると幸いです。

脳卒中片麻痺による異常歩行の1つに分回し歩行があります。

分回し歩行とは麻痺側遊脚期を通じて麻痺側下肢全体を外側から内側に大きく回し前方へ振り出す歩行です。

今回は脳卒中片麻痺により生じる分回し歩行の概要・機序・内容と分回し歩様改善のリハビリアプローチ方法を記載します。

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分回し歩行の概要と特徴

痙性麻痺により下肢伸展パターン出現下するとトゥクリアランスが低下し転倒リスクが上昇します。

下肢伸展パターン出現下でトゥクリアランスを担保する戦略歩行が分回し歩行です。

下肢伸展パターンは麻痺側下肢BRSⅢ~Ⅳの方に生じやすく以下の関節運動が複合して生じる運動パターンをさします。

・股関節伸展

・膝関節伸展

・足関節底屈

・足関節内反

・股関節内転

・股関節内旋

私見ですが、分回し歩行を生じさせる下肢伸展パターンは立位関連動作時における下腿三頭筋の筋緊張亢進が主要因で生じると考えています。

以下に理由を述べます。

痙性麻痺で下腿三頭筋の筋緊張が亢進する理由

健常者の足関節に着目すると、下腿三頭筋は前脛骨筋と比較し筋面積が大きく赤筋繊維(ヒラメ筋)が豊富です。

そのため安静立位では足関節背屈位で保持し姿勢制御する戦略をとっています。

下腿三頭筋の筋紡錘(錐内筋繊維)は足関節背屈の程度、つまり自重による下腿三頭筋の伸張に応じ、Ⅰa群繊維とⅡ群繊維を介してa繊維の興奮・抑制を調整し筋収縮を調節しています。

痙性麻痺は内包損傷により錐体外路が障害された結果生じます。

α運動ニューロン・α繊維を抑制するⅡ群繊維の機能が破綻し筋緊張が亢進します。

Ⅱ群繊維の抑制が外れたことにより、自重で下腿三頭筋にわずかな筋伸張(筋断裂が生じない筋伸張)が生じても、「筋断裂が生じる!」と錐内筋が誤認します。

その結果、筋断裂を予防する為にⅠa群繊維が興奮し、α運動繊維が発火することで下腿三頭筋に更なる強い筋収縮が生じます。

持続した筋収縮に伴い下腿三頭筋の筋緊張は亢進します。

筋緊張亢進のメカニズムの詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。

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下肢伸展パターンで分回し歩行が生じる機序

持続的な下腿三頭筋の筋緊張亢進は運動連鎖で股関節・膝関節伸展方向へのモーメントを発生させるため、股関節・膝関節単一での分離運動が困難となります。

その結果、以下の複合した関節運動のパターンが形成されます。

・股関節伸展

・膝関節伸展

・足関節底屈

・足関節内反

歩行に着目すると通常歩行では、下腿三頭筋のうち、ヒラメ筋はMst~Tstにかけて遠心性収縮しつつ足関節背屈を制御することで、下腿の安定性を確保します。

一方で腓腹筋はTst時に蹴りだしを行い前方への推進力を生じさせ下肢を円滑に前方へ振り出すモーメントを発揮します。

下腿三頭筋の筋緊張亢進で腓腹筋による蹴りだしの機能が破綻した場合、Mst後期かTstで腸腰筋の求心性収縮による、股関節屈曲が行えれば、麻痺側下肢を前方に振り出すことが可能です。

しかし下肢伸展パターンでは大殿筋の筋緊張亢進を認める場合が多く、拮抗筋の腸腰筋にはⅠa群繊維は抑制性の刺激を送っているため、腸腰筋は筋出力が発揮しにくい状況下にあります。

そのため、LR~Tstで麻痺側骨盤後方回旋から体幹前傾により上半身の重心を前方移動させます。

その状態から麻痺側遊脚期を通じて腰方形筋の求心性収縮により腰椎側屈・骨盤拳上させトゥクリアランスを確保します。

下半身の重心を前方移動させるために股関節内転・内旋筋を求心性収縮させ下肢を振り出し分回し歩行が形成されます。

分回し歩行の問題点と歩様改善時の注意点

分回し歩行が確立されると、腰椎側屈作用の腰方形筋や股関節内転作用の股関節内転筋群は過使用となり筋短縮や筋虚血による疼痛が生じることが問題点です。

分回し歩様は下肢伸展パターン出現下で転倒を回避するための戦力歩行です。

そのため歩様を改善する際は、改善後にトゥクリアランス低下による転倒が生じないよう留意する必要があります。

分回し歩様改善のリハビリ治療アプローチ

下腿三頭筋の筋緊張が亢進している以上、腓骨筋の蹴りだしによる前方推進力の担保は困難と考えます 。

そのため、分回し歩様を改善するには、麻痺側下肢の振り出しを腸腰筋求心性収縮が主体の股関節屈曲動作にシフトチェンジする必要があります。

最初に行うべきアプローチは装具療法です。

短下肢装具を着用し足関節の自由度を減らすことで、麻痺側遊脚期を通じたトゥクリアランスの確保と麻痺側IC時の踵接地を担保します。

短下肢装具に関する詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。

次に筋緊張亢進を認める以下の筋の緊張緩和をストレッチ・Ⅰb抑制テクニック、相反抑制で図ります。 

・腰方形筋

・大殿筋

・股関節内転筋群

・大腿四頭筋

・下腿三頭筋

筋緊張亢進に伴う筋短縮や拮抗筋の持続牽引に伴う筋伸張位保持は筋出力を低下させる要因のためリハビリアプローチで改善する必要性が高いです。

また筋緊張亢進を認める筋の拮抗筋に対しⅠa繊維は抑制性刺激を送っています。

大殿筋の筋緊張亢進を認める場合、腸腰筋の筋出力は発揮しにくく股関節屈曲動作の阻害要因となります。

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筋緊張緩和のストレッチ

腰方形筋のストレッチ方法

両手を前方で組んだまま頭頂部上方まで上げます。

その状態で体を大きく対側に回旋し伸張させます。

大殿筋のストレッチ方法

背臥位で股関節屈曲・内転・内旋方向させ手でひきよせます。

下腿三頭筋のストレッチ方法

椅子座位で麻痺側足関節背屈させゆっくりと体重を加えていき伸張します。

股関節内転筋群のマッサージ

股関節内転筋群は片麻痺者が自身でストレッチすることが難しい場合が多いため、筋腹を中心に非麻痺側の手でマッサージする方法を選択します。

治療アプローチであるマッサージの詳細はこちらです。

腸腰筋の筋力増強練習

大殿筋の筋緊張亢進の緊張緩和に伴い、持続牽引による腸腰筋の伸張位保持が改善され、腸腰筋は張力が発揮しやすい状態となります。

腸腰筋の張力が発揮しやすい状況下でも筋出力低下を認める場合、腸腰筋の筋力低下が出力低下の要因である可能性は高く筋力増強練習を実施する必要があります。

具体的な筋力増強練習方法としては、椅子座位にて浅く座り背筋を伸ばし骨盤中間位を担保した状態から麻痺側股関節を屈曲します。

骨盤前後傾の代償に注意します。

運動負荷を強める場合は足首に重錘を巻きます。

ステップ動作練習

筋緊張亢進を認める筋の緊張緩和と腸腰筋の筋出力向上を図りつつ、麻痺側遊脚期において股関節屈曲動作での麻痺側下肢振り出し獲得を目的にステップ練習を実施し運動学習を促します。

ステップ練習は2つに相分けし実施します。

1つ目は麻痺側Psw~ICの相です。

腸腰筋の遠心性収縮から求心性収縮への切り替え(協調性)を学習し分回し歩行を是正することを目的とします。

2つ目は麻痺側IC~Pswの相です。

麻痺側下肢へ重心移動し非麻痺側下肢の歩幅を増大することで麻痺側遊脚期を通じた腸腰筋の負担軽減を目的とします。

設定としては、前方か側方に鏡を設置し、腸腰筋の筋収縮を意識しつつ視覚でフィードバックすると効果的です。

課題難易度が低い平行棒から開始し徐々に課題難易度をあげる方法が望ましいです。

まとめ

分回し歩行の要因と機序・歩様改善のアプローチ方法に関して記載しました。

下腿三頭筋の筋緊張亢進が下肢伸展パターンを生じさせ、下肢伸展パターン出現下でトゥクリアランスの確保するための歩行戦略が分回し歩行です。

生活期における分回し歩行の歩様改善は容易ではないため、回復期リハビリテーションの初学習の時期に分回し歩行を出現させないリハビリアプローチを展開することが1番望ましいと思います。

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