理学療法士であれば大腿骨転子部骨折に対するリハビリテーションを誰でも1度は経験するかと思います。それほど身近な疾患です。
今回は大腿骨転子部骨折の原因・手術療法・リハビリ内容に関して記載します。
目次
大腿骨転子部骨折の概要
大腿骨転子部は以下の図の⑥の部分です。
大腿骨転子間線(大転子と小転子を結ぶ線)~大腿骨小転子部までが大腿骨転子部です。大腿骨転子部に生じる骨折を転子部骨折といいます。
関節包・頸部を境に包内骨折と包外骨折に分けられ、大腿骨転子部骨折は包外骨折に位置づけられます。
大腿骨転子部骨折は70歳以上の女性の発生割合が多く、男性の3.5倍~4倍近い発症率を有します。女性の方が男性よりも骨密度が低下しやすいことが一要因です。
大腿骨転子部骨折の主原因は転倒です。
転倒した際に大腿骨転子部を強打すると、構造上大腿骨転子部に外力が直達し、大腿骨転子部骨折が生じます。
大腿骨転子部骨折の判定と分類
大腿骨転子部骨折の判定はエックス線単純写真によって行われます。
大腿骨転子部骨折の重傷度分類は、Evans分類が用いられます。
Evansの分類はまず骨折の程度によって以下の2つに分類されます。
・「安定型」
・「不安定型」
「安定型」は、頸部内側骨皮質が保たれているか、整復可能なものをさします。
「不安定型」は、頸部内側骨皮質が保たれておらず、整復困難なものをさします。
頸部内側骨皮質は骨密度が多いため、保たれていれば骨癒合が期待できます。
次に「TYPEⅠ」か「TYPEⅡ」かに分類されます。
「TYPEⅠ」は大転子から小転子に向かう骨折です。
「TYPEⅡ」は小転子から外側に向かう骨折です。
TYPE分類後、「Group1~4」に分類されます。
Group1→転移なし。
Group2→転移はあるが、頸部内側骨皮質の破壊は軽度で整復可能。
Group3→転移しており、頸部内側骨皮質の整復困難。
Group4→粉砕骨折で整復困難。
大腿骨転子部骨折の手術療法
大腿骨転子部骨折では一般的に骨接合術が選択されます。
理由は関節包外骨折である転子部骨折は大腿骨頭とは異なり、骨折後も血液供給は豊富で骨癒合が期待できるためです。
大腿骨転子部骨折に保存療法は推奨されません。
理由は大腿骨転子部には多数の筋が付着しており筋収縮が骨癒合を阻害し偽関節を形成する要因となるためです。
骨接合術には以下のようなものがあります。
・PFNA
・γ-nail
どちらもラグスクリュー(大転子の下から骨頭内に挿入するスクリュー)により骨折部の圧迫(荷重)による骨癒合が期待でき、固定力が強固です。
PFNAはらせん状の切り込みがあり、ガイドピン挿入後、ラグスクリューを挿入すれば完了します。
γ-nailと比較するとドリリングする手間を省けるため、最近の骨接合術はPFNAが主流となっています。
術後の経過が良好の場合、早ければ術後翌日より免荷での荷重練習が可能となります。
少なくとも座位練習は可能となる場合が多く、術後1週間以内には全荷重が可能となる場合が多いです。
大腿骨転子部骨折のリハビリテーション
以下に時系列でリハビリ内容を記載していきます。
術日(術後)
深部静脈血栓症予防に痛みが生じない範囲でOKCの運動(足関節背屈運動、股関節外転運動等)を主体に行います。
大腿骨転子部骨折の術後で問題となるのが、膝関節伸展に伴う疼痛です。
骨接合術は侵襲が大きく、大腿筋膜張筋と腸脛靭帯に加え外側広筋を切開する術式が多いです。
外側広筋の切開による術後の疼痛は膝関節伸展運動量を減少させ、膝関節屈曲拘縮と赤筋繊維が豊富な内側広筋の筋委縮を進行させます。
萎縮した内側広筋の筋収縮・筋出力を外側広筋に過緊張で代償します。
持続した過緊張により膝関節外側部にメカニカルストレスが加わり、膝蓋骨外側部に痛みが生じやすいです。
そのため、痛みと痛みによる過緊張を是正することが第一優先としつつ、痛みが著明に軽減・消失したら萎縮した内側広筋の筋力増強を図る必要があります。
また忘れがちですが、切開部の皮膚癒着や術後の浮腫も関節可動域制限を形成する要因です。術後の皮膚伸張と浮腫へのアプローチも行い癒着を予防します。
座位保持練習可能
術後翌日から座位保持練習が行えるようになります。呼吸・循環機能を低下させない上でも下肢下垂位での端座位保持練習を積極的に実施します。
手術側の下肢筋委縮を以下のリハビリプログラムなどで予防します。
・SLR
・パテラセッティング
・端座位での膝伸展運動
内側広筋の委縮予防に効果的なパテラセッティングの詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
手術対側の下肢筋力増強を以下のリハビリプログラムなどで図ります。
・平行棒内で手術対側下肢のみ使用したスクワット
・歩行練習(両上肢で平行棒を把持しつつ手術対側下肢のみでケンケン)
大腿骨転子部骨折に対するリハビリは、手術側の部分荷重練習開始までの期間に手術対側の下肢筋力低下及び二次障害の廃用症候群を生じさせないことが重要です。
荷重練習が可能
術側下肢の荷重練習が開始となれば積極的に荷重練習を導入します。
早期にフルウェイトの許可がでても術後は恐怖感が大きいです。
そのため部分荷重から開始し、荷重に伴う疼痛が発生しない安心感を得て頂きつつ、徐々に荷重量を増やしていく方法が望ましいです。
具体的には、各両足下に体重計を設置し何kgまで荷重可能か患者に視覚でフィードバックしていくことで恐怖感を減少しつつ、徐々に荷重量を増大させフルウェイトを目指します。
手術側の下肢荷重量増大に伴い歩行動作など動作練習が導入可能となります。
動作練習は代償動作が出現しないように留意する必要があります。
例えば、中殿筋の筋出力・筋力低下が生じると立位で骨盤平行保持が困難となります。そのため股関節内転筋群の過緊張により骨盤平行保持を代償させます。
大腿骨頚部骨折の人工骨頭置換術と異なり、中殿筋の手術侵襲はありませんが、術後の臥床に伴い赤筋線維が豊富な中殿筋の筋委縮・筋力低下は生じやすいです。
同時に重心移動練習を実施し、安定性限界、予測的安定性限界を拡大することで再転倒予防を図ります。
安定性限界・予測的安定性限界に関する説明はこちらです。
まとめ
大腿骨転子部骨折の原因・手術療法・リハビリ内容に関して記載しました。
骨折後の廃用症候群を是正しつつ以下の内容を中心にリハビリを展開します。
・術後の疼痛
・浮腫の軽減
・皮膚の癒着
・関節拘縮予防
・内側広筋と中殿筋を中心とした筋力増強
・荷重量の調節
・再転倒予防の為の安定性限界と予測的安定性限界の拡大
高い目標ですが、受傷前と同じADL動作までリハビリで改善することを目標にアプローチしていきましょう。
大腿骨転子部骨折の理解が深まる一冊がこちらです。