下腿三頭筋はヒラメ筋と腓腹筋の総称です。
ヒラメ筋と腓腹筋は混合されやすいですが、白筋繊維と赤筋繊維保有量に差があり作用も大きく異なります。
今回は下腿三頭筋の作用とストレッチ・筋トレ方法を主に記載します。
目次
下腿三頭筋(ヒラメ筋・腓腹筋)の作用とは?
下腿三頭筋としての重要な作用は筋ポンプで重力に逆らい静脈血流を心臓に戻す機能(ミルキングアクション)です。
そのため下腿三頭筋の筋力低下は浮腫を生じさせる一要因となります。
ヒラメ筋と腓腹筋の単一筋作用に関して以下に述べます。
ヒラメ筋の作用
赤筋繊維が多く持久力に優れている特徴があります。
静的立位では足関節背屈位で保持し姿勢制御します。
足関節背屈位保持はヒラメ筋の持続的な遠心性収縮の貢献度が大きいです。
静的立位は支持基底面内の安定性限界の中央に身体重心の投影点が近づくほど安定します。
身体重心は絶えず動いておりその都度、安定性限界の中央に身体重心の投影点を近づける戦略が必要となります。
安定性限界の中央に身体重心の投影点を近づける戦略として足関節の背屈角度を調整し姿勢制御することが第一に選択されます。
具体的にはヒラメ筋の筋紡錘(錐内筋繊維)が自重による伸張に応じ、Ⅰa群繊維とⅡ群繊維を介してα繊維の興奮・抑制を調整します。
筋収縮はα繊維の興奮度に依存します。結果として足関節背屈角度がコントロールされ姿勢制御が図れます。
Ⅰa群繊維やⅡ群繊維などの神経線維と筋緊張に関する詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
このように転倒なく日常生活を送る上でヒラメ筋の作用は重要です。
赤筋繊維保有量が多いヒラメ筋は長期臥床で筋委縮が進行しやすい点も併せて覚えておくポイントです。
腓腹筋の作用
腓腹筋は白筋繊維が多く瞬発力に優れている特徴があります。
重要な作用として、遠心性収縮から求心性収縮へ素早く切り替える(プッシュオフ)ことで前方への推進力を得る「蹴りだし」があります。
この蹴りだしは歩行のTst時や走行、坂道を上る際に役立っています。
腓腹筋の作用が破綻する代表的な疾患が脳卒中です。
痙性麻痺で下腿三頭筋の筋緊張が亢進すると腓腹筋のプッシュオフ機能が破綻します。
プッシュオフによる蹴りだし機能を体幹前傾や股関節内転筋群の求心性収縮で代償し前方への推進力を担保します。
簡易的に言いましたがこの歩様が分回し歩行です。
下腿三頭筋(ヒラメ筋・腓腹筋)の起始・停止
【ヒラメ筋】
起始
・腓骨頭
・腓骨と脛骨の間のヒラメ筋腱弓
・脛骨後面のヒラメ筋線
停止:踵骨隆起
収縮による関節運動:足関節の底屈
【腓腹筋(二関節筋)】
起始
①外側頭:大腿骨の外側上顆
②内側頭:大腿骨の内側上顆
停止:踵骨隆起
収縮による関節運動:足関節の底屈、膝関節屈曲
下腿三頭筋(ヒラメ筋・腓腹筋)のストレッチ方法
下腿三頭筋に過緊張が生じている場合や痙性麻痺に伴う筋緊張亢進を認める場合、アプローチは装具療法か緊張緩和のいずれかが選択されます。
装具療法では短下肢装具を用いて足関節の自由度を減らし課題難易度を下げます。お時間があったらこちらを参照ください。
下腿三頭筋の緊張緩和アプローチを選択する場合、過緊張・筋緊張亢進共にストレッチで緊張緩和が図れます。
またⅠb抑制テクニックと相反抑制を用いることで筋緊張亢進に対する緊張緩和が図れます。
ストレッチ方法
持続伸張によるスタティックストレッチが効果的です。
筋腱移行部を伸長することで筋節数が増大し、伸張性が増大します。
具体的には以下のような方法が挙げられます。
・椅子座位で足関節背屈させゆっくりと体重を加えていき持続伸張
・立位でのアキレス腱伸ばし
Ⅰb抑制テクニック
Ⅰb抑制テクニックとは腱部を5~10秒、持続的に圧迫・伸張する方法です。
下腿三頭筋の腱部を持続圧迫します。私は親指での圧迫が実施しやすいです。
Ⅰb抑制テクニックが筋緊張亢進を抑制する機序は、他動的に腱部が伸張されると腱断裂を予防するためⅠb繊維が興奮しα運動ニューロンを抑制するためです。
Ⅰb抑制テクニックはマッサージに分類されます。詳細はこちらです。
相反抑制
相反抑制を用いた方法は、下腿三頭筋の拮抗筋である前脛骨筋の筋収縮を促すことで下腿三頭筋にⅠa群繊維が抑制性刺激を送る結果、下腿三頭筋の緊張を緩和させる方法です 。
前脛骨筋の随意収縮が不十分の場合は、低周波治療(電気刺激療法)を行います。
あくまで経験上ですが、50Hz前後の強さで10~15分程度行うと収縮が得られることが多いです。
前脛骨筋の筋収縮促通には以下のような方法が挙げられます。
・椅子座位で足部のつま先あげを行う方法
この際、対側下肢の足尖でつま先あげを行う足背に体重を加えると運動負荷量が増大します。
下腿三頭筋(ヒラメ筋・腓腹筋)の筋トレ方法
緊張緩和が図れたら即時的に足関節背屈角度が増大します。
緊張緩和で新しく得られた関節可動域を反映させた筋力増強練習を行い筋力・筋出力の向上を図ります。
具体的には以下のような方法が挙げられます。
・非麻痺側上肢で麻痺側膝を上から押しつつ踵上げする方法
・立位でカフレイズを行う方法
いずれの方法も過緊張や筋緊張亢進が増大しないよう課題難易度を調整することが大切です。
まとめ
下腿三頭筋の作用とストレッチ・筋トレ方法を記載しました。
ミルキングアクションや足関節戦略、プッシュオフによる蹴りだし等、下腿三頭筋にしか行えない作用が多々あります。
そのため、ストレッチで下腿三頭筋の伸張性を保持しつつ筋トレで筋力・筋出力の担保を図り作用が破綻しないよう努めましょう。