変形性膝関節症(膝OA)の方の多くは内側広筋の筋委縮を認めています。
内側広筋の筋委縮は関節軟骨の摩耗を助長し膝関節の変形を進行させます。
今回は変形性膝関節症における内側広筋の筋委縮に効果的なパテラセッティングの方法を記載します。
目次
パテラセッティングとは?
パテラセッティングは、背臥位にて膝軽度屈曲位から最大伸展させることで内側広筋の筋委縮を是正する等尺性運動です。
パテラセッティングはOKC下の等尺性運動のため膝関節への負担が少ない特性があります。
関節の炎症を抑えつつ筋委縮の改善を図る必要性が高い変形性膝関節症では特に重宝するアプローチです。
パテラセッティングは立位でも行えますが、立位ではCKCの運動となり膝関節の負担が増大するため、変形性膝関節症の方には非推奨です。
内側広筋の筋萎縮が膝関節変形を進行させる理由
膝関節を構成する関節の1つに大腿脛骨関節(大腿骨と脛骨間)があります。
大腿脛骨関節は構造上、骨性支持のみでは関節の脱臼を予防できません。
そのため、大腿四頭筋を中心とする筋肉と前・後十字靭帯、内外側側副靭帯を中心とする靭帯で脱臼予防しています。
退行性変化で靭帯の補強力が低下すると筋肉を過緊張させて脱臼を予防する戦略をとります。
実際は大腿四頭筋の4筋全てが過緊張するわけではありません。
具体的には、赤筋繊維が豊富な内側広筋は退行性変化に伴う臥床時間延長で筋委縮が生じやすいです。
筋委縮が生じている場合、補強に寄与できる割合は少ないです。
そのため白筋繊維が豊富な大腿直筋と外側広筋が過緊張し膝関節の動揺予防と関節脱臼を予防します。
その状態が長期化すると大腿骨内側部と脛骨内側部に圧が集中します。
関節軟骨の摩耗が生じ膝関節の変形(O脚)が助長・形成されます。
変形性膝関節症において内側広筋の委縮はリハビリで是正すべき大きなポイントです。
変形性膝関節症の詳細とリハビリ内容はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
パテラセッティングの効果を高めるリハビリ方法
パテラセッティングの効果を高めるために2つの事前準備をリハビリで行います。
1つ目は外側広筋の大腿直筋の過緊張を緩和し、内側広筋が停止する膝蓋骨の可動域を確保します。
2つ目は関節包の後方短縮とハムストリングスの過緊張を緩和し膝関節伸展の可動域を確保します。
内側広筋は膝伸展最終域で活動が高まるため膝伸展制限により筋出力が発揮し難くなることが理由です。
膝蓋骨の可動性を確保するリハビリ
大腿四頭筋の筋収縮は以下の方向へ膝蓋骨を移動させるモーメントを発生させます。
・内側広筋の収縮は膝蓋骨を内側方向
・外側広筋の収縮は膝蓋骨を外側方向
・大腿直筋の収縮は膝蓋骨を直上方向
上述した機序で内側広筋は筋委縮し大腿直筋と外側広筋は過緊張するため膝蓋骨は上外側へ偏移します。
そのため始めに大腿直筋と外側広筋の緊張緩和を図る必要があります。
外側広筋と大腿直筋は共に膝蓋腱を介して脛骨粗面に停止します。
Ⅰb抑制の理論に基づき、膝蓋腱に5~10秒持続圧迫を加えて大腿直筋と外側広筋の緊張緩和を図ります。
その後、両筋への筋腹に沿った圧迫法・揉捻法のマッサージを施行とストレッチを実施し筋全体の緊張を緩和させます。
マッサージに関する詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
大腿直筋と外側広筋の緊張緩和が図れたら膝蓋骨を徒手で持続牽引します。
上外方に偏移している膝蓋骨を正中位に戻すよう持続牽引し膝蓋骨の可動域を確保します。
膝関節伸展の可動域を確保するリハビリ
関節包の後方短縮へのアプローチは、膝関節伸展を伸長しつつ手掌で膝蓋骨を大腿骨に押し込むように持続的に圧迫し伸張させていきます。
関節包の後方が著明に短縮し癒着している場合は、超音波療法を併用し伸張した方が効率的なことが多いです。
ハムストリングスの過緊張を緩和するアプローチとしては、ストレッチが挙げられます。
具体的には、椅子座位にて下肢を伸展(足背屈)させ下腿後面を両手で把持し持続伸張します。
パテラセッティング(背臥位での等尺性運動)の方法
膝蓋骨と膝関節伸展の可動域を確保できたらパテラセッティングを実施していきます。
以下の①~④がパテラセッティングの方法です
①背臥位で膝下に丸めたタオルをいれます。
②大腿外旋位・膝軽度屈曲位のポジショニングをとります。
③その状態から、膝最終伸展位で5秒間保持します。
④上記の運動を1日当たり20~30回×2~3セット繰り返し行います。
内側広筋に関わらず、筋肉は短縮位となると張力を失い筋出力が低下します。
内側広筋は走行上股関節外旋位をとることで伸張されます。
伸張位で張力を発揮した状態下にて膝伸展最終域までの運動を繰り返すことで内側広筋の筋委縮予防が理論的には図れます。
パテラセッティングは内側広筋の萎縮に対して有用なアプローチ方法ですが、回数や頻度に関しては確定したものがないのが現状です。
上述したように内側広筋は赤筋繊維割合が多いです。
パテラセッティング自体高負荷の運動ではないため、回数と頻度はなるべく多く行ってもよいかと思います(低負荷・高頻度)。
ただし、低負荷運動でも頻度を増やせば負担は増大します。
原則として膝関節の炎症が生じない範囲で実施してください。
注意点としてはパテラセッティングのみでは内側広筋の著明な筋力増強が図れない点です。
筋力増強には高負荷低頻度もしくは中負荷中頻度の運動が必要です。
パテラセッティングはあくまで膝関節の炎症を生じさせずに内側広筋の筋委縮を予防する目的で行うことが望ましいです。
まとめ
変形性膝関節症における内側広筋の筋委縮に効果的なパテラセッティングの方法を記載しました。
変形性疾患では関節包内の炎症を緩和・消失させつつ筋委縮を予防し活動量の向上を図る必要があります。
パテラセッティングは膝関節の炎症を生じさせずに内側広筋の筋委縮予防が可能なアプローチ方法です。