脳卒中発症により麻痺側の筋緊張低下を認めると支持性の低下が生じます。
支持性の低下は動作介助量を増大させる大きな要因となります。
筋緊張低下は錐体路障害により生じます。
今回は錐体路障害で筋緊張が低下するメカニズムと改善するリハビリ治療に関して記載します。
目次
錐体路の機能と経路とは?
錐体路の機能
錐体路は「随意運動を行う筋収縮の有無」を決定する運動指令を大脳から脊髄へ伝える経路です。
錐体路が伝達する内容は「筋収縮の有無」のみです。筋緊張の調節には関与しません。
錐体路には3つの経路が存在しますが、いずれも一次運動野から始まります
一次運動野には以下の体部位局在(運動領域支配)が存在します。
・下肢
・体幹
・上肢
・手指
・顔面
錐体路の3つの経路(一次運動野から脊髄前角細胞まで)
錐体路には以下の3つの経路が存在します。
・外側皮質脊髄路
・前皮質脊髄路
・皮質核路
外側皮質脊髄路
外側皮質脊髄路は主に「四肢の筋収縮の有無」を支配します。
大脳の一次運動野から放線冠→内包後脚→中脳大脳脚→橋底部→延髄錐体交差→脊髄前角細胞に下降します。
一次運動野から下降した神経の85%前後は延髄交差し外側皮質脊髄路となります。
前皮質脊髄路
前皮質脊髄路は主に「体幹の筋収縮の有無」を支配します。
大脳の一次運動野から放線冠→内包後脚→中脳大脳脚→橋底部→延髄錐体→脊髄前角細胞に下降します。
一次運動野から下降した神経の15%前後は延髄を交差せず前皮質脊髄路となります。
皮質核路
皮質核路は主に「錐体外路の抑制」を行います。
一次運動野→内包膝→大脳脚交差→脳幹の神経核に投影されます。
脊髄前角細胞から筋収縮が生じるまでの経路
皮質核路以外の錘体路は「随意運動を行う筋収縮の指令」を脊髄前角のα運動ニューロンに伝達します。
α運動ニューロンはα繊維を通じて錐外筋(骨格筋)に指令を伝達し筋収縮が生じます。
このように錐体路から下降した指令を伝達するα運動ニューロンを中心とした神経線維はシンプルで筋収縮・弛緩のみを決定します。
神経線維に関する詳細と筋紡錘・腱紡錘の作用はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
錐体路障害で筋緊張低下が生じるメカニズム
筋収縮はα繊維の発火(興奮度)に依存します
純粋に錐体路のみ障害されたと仮定した場合、α運動ニューロンからα運動繊維に下降する経路が遮断されます。
その結果、α運動繊維は発火が困難となります。
つまり筋収縮が困難な状態となり弛緩性麻痺を呈します。
時間経過と共に筋緊張低下から筋緊張亢進に変動する理由
筋緊張低下から筋緊張亢進に変動する機序
錐体路のみ障害された場合は上述した機序で弛緩性麻痺を呈し時間経過と共に筋緊張亢進は認めません。
しかし臨床上、錐体路のみ障害される方は非常に稀であり、多くは錐体路と同時に錐体外路も障害されます。
理由は錐体路と錐体外路の走行にあります。
錐体路は内包を通過しますが、内包には皮質核路という錐体外路を抑制する経路も存在します。
脳卒中で内包が損傷されると皮質核路も障害され錐体外路の抑制が外れます。
具体的にはα運動繊維の発火を抑制するⅡ群繊維が破綻し興奮性の刺激がα運動ニューロンに投影されます。
その結果、筋緊張低下から筋緊張亢進に変動します。
筋緊張低下から筋緊張亢進変動までに時間を有する機序
筋緊張亢進変動までに時間を有する主な理由は以下の2点です。
・運動野における錐体路と錐体外路の神経線維割合
・ペナンブラの救済
運動野から下降する神経線維割合は錐体路繊維と比較し錐体外路繊維が圧倒的に多いです。
そのため脳卒中により脳細胞が壊死すると錐体外路繊維に多大な障害が生じます。
脳卒中直後はペナンブラという細胞死を免れているが血流量の低下している領域が存在します。
ペナンブラ領域の錐体外路繊維は休止状態にありますが、早期の血流再開によって救済され徐々に休止状態が解除されます。
錐体外路の再活動(ペナンブラの救済)に時間を費やすため筋緊張低下から筋緊張亢進への変動に時間を有します。
筋緊張亢進に対するリハビリ治療はこちらです。
錐体路障害による筋緊張低下に対するリハビリ治療
筋緊張低下に対するリハビリ優先順位
筋緊張低下を呈した麻痺側大殿筋・大腿四頭筋の筋収縮を促通し麻痺側股関節・膝関節伸展動作(支持性)を確立することが最優先事項となります。
麻痺側股関節・膝関節伸展動作(支持性)の確立とは随意運動で麻痺側膝関節屈曲伸展がコントロールできることを意味します。
麻痺側下肢の支持性向上により立位関連動作(移乗・トイレ動作など)の介助量軽減が図れることが最優先事項である理由です。
筋緊張低下に対するリハビリ治療
筋緊張が低下している状態では立位にて麻痺側膝折れが生じ麻痺側大腿四頭筋・大殿筋に十分な筋収縮が入りません。
そのため長下肢装具を用いて関節の自由度を減らした状態で以下の方法にて大腿四頭筋・大殿筋の筋収縮を促通します。
・荷重練習
・歩行練習
長下肢装具の継手の種類や目的、エビデンスに対する考察はこちらです。
荷重練習
設定は膝関節屈曲5度固定、足関節背屈5度固定で関節の自由度を減らします。
前方もしくは側方に鏡を設置し視覚でフィードバックします。
その状態で他動的に麻痺側下肢への荷重量を増大させていきます。
大殿筋・大腿四頭筋の筋収縮が得られているか触診しつつ実施してください。
歩行練習
歩行練習開始時の長下肢装具の設定
設定は膝関節屈曲5度固定、足関節背屈5度固定で関節の自由度を減らします。
前方もしくは側方に鏡を設置し視覚でフィードバックしつつ、筋収縮のタイミングを運動学習を促します。
介助方法としては後方より体幹伸展の代償動作を是正しつつ麻痺側下肢の振り出しを介助し、努力性動作に伴う筋緊張亢進を抑制します。
麻痺側IC時に介助で踵接地を誘導します。大腿が外旋位にならないよう注意してください。
麻痺側LR~Mstにかけて大殿筋と大腿四頭筋の筋収縮が得られているか触診で確認します。
関節固定角度は5度と記載しましたが個人差があります。5度~8度程度で調節し1番筋収縮が得られる角度で練習してください。
大腿四頭筋と大殿筋収縮の筋収縮促通後の長下肢装具設定
大殿筋と大腿四頭筋の筋収縮がある程度促通されると立位、膝関節屈曲5度、麻痺側裸足設定での麻痺側への重心移動で膝折れが出現しなくなります。
この程度促通されれば課題難易度をあげます。
具体的には足継手を背屈5度~誘導フリーにし膝関節屈曲5度以外の角度で大殿筋・大腿四頭筋の筋収縮を促通します。
前方もしくは側方に鏡を設置し視覚でフィードバックしつつ、筋収縮のタイミングを運動学習を促します。
介助方法としては後方より体幹伸展の代償動作を是正しつつ麻痺側下肢の振り出しを自動介助運動で行います。
麻痺側IC時に踵接地を誘導します。大腿は中間位で接地します。
麻痺側LR~Mstにかけて大殿筋と大腿四頭筋の筋収縮が得られているか触診で確認します。
短下肢装具へのカットダウン検討
麻痺側膝関節屈曲5度以外の角度で麻痺側下肢に重心移動しても膝折れが生じずある程度コントロール可能となったら短下肢装具への移行を検討します。
長下肢装具から短下肢装具にカットダウンすることで日常生活にて使用可能となり活躍の場が広がります。
まとめ
錐体路障害で筋緊張が低下するメカニズムと改善するリハビリ治療に関して記載しました。
理学療法士の腕の見せ所は、筋緊張低下を認めた筋に対する筋収縮促通時に「いかに過度な筋緊張亢進を是正するか」だと思います。
そのためには環境調整を含めた課題難易度の調節と運動量・運動負荷量の調節が大切です。