糖尿病は日本における代表的な生活習慣病の1つであり、糖尿病者数と予備軍数は年々増大している現状があります。
糖尿病の慢性合併症に最小血管障害に伴う足病変の潰瘍・壊疽が挙げられます。
今回は糖尿病の足病変の潰瘍と壊疽に焦点を絞って解説しつつ、進行を予防する効果的な足底装具の一例を記載します。
目次
糖尿病とは?
人は糖を摂取すると血糖値があがります。
上昇した血糖値を下げるために膵臓(膵β細胞)からインスリンが分泌され、血糖値はコントロールされています。
糖尿病はインスリン分泌の欠乏や感受性低下によって糖質、脂質、タンパク質の代謝が障害される病気です。
糖尿病は2つの型に分類されます。
・1型糖尿病
・2型糖尿病
1型糖尿病は膵β細胞の破壊によって生じます。
膵臓からインスリンが分泌されなくなるため、インスリン注射が必須となります。
2型糖尿病は膵β細胞からのインスリン分泌障害とインスリン抵抗性により生じます。
発症には遺伝的要因と生活習慣要因(食生活・運動不足、ストレス、感染、薬物等)が関与し自覚症状がないまま進行します。
食事療法と運動療法により症状が改善する可能性があります。
糖尿病足病変とは?
糖尿病の慢性合併症の1つに末梢血管障害があります。
長期間の高血糖状態により血小板粘着性等の血液凝固因子が亢進した結果、最小血管を中心に血管閉塞が生じます。
足部には最小血管が多数存在しているため血管閉塞により冷感が生じます。
血管閉塞が進行し足部に栄養が行き渡らない場合、最小血管が多く存在している5趾を中心に壊疽が生じます。
また血管閉塞が原因で足部の表在感覚・深部感覚・温冷覚等、さまざまな感覚が障害される神経障害が出現します。進行すると感覚脱失が生じます。
感覚障害が進行すると日常生活にてこたつでの火傷や足底からの流血に気づけない等のリスクが高まります。
糖尿病足病変の潰瘍と壊疽が形成される機序
足部の潰瘍と壊疽が生じる主原因は上述した血行障害が主です。
実際は血行障害に加え神経障害により足底の胼胝や小傷に神経障害で気づけないことが複合して関与します。
また気づいても保護せずに荷重を加え足底胼胝(タコ)や小傷が悪化した結果、潰瘍と壊疽が進行するケースが多いです。
足部の潰瘍・壊疽が進行すると進行を止める手段として足趾や足部の切断を余儀なく選択されます。
しかし主原因である血行障害の持続や足部保護・足底圧分散が不十分の場合、切断後も切断した部位や胼胝等から壊疽・潰瘍が進行し足近位部を再切断するといった悪循環が形成されます。
悪循環を是正する方法として理学療法士は足底装具の作成を検討できます。
糖尿病足病変の潰瘍と壊疽を予防する足底装具作成手順
足部の潰瘍・壊死は足底圧と足底胼胝の関与が示唆されており、理学療法士は足底装具を作成することで足底圧分散と胼胝形成予防を図ることが重要です。
糖尿病足病変者のリハビリは足底装具を作成し、いかに体重を足底に加えないか、いかに足圧を分散できる歩様・環境調整を行えるかが大きなポイントになります。
足底装具作成前に押さえるポイント
足底装具の作成は、大まかにいうと「足部切断のリスクを減らすかわりに室内でも靴を履いてもらう生活になる」ということです。
つまり足底装具の必要性とメリット・デメリットに関して、対象者とよく話合い理解して頂く必要があります。
このポイントは本当に重要です。どんなにいい足底装具を作成しても使用してもらえなければ意味がありません。
自由な在宅生活にも関わらず靴を履かなければいけないという<メンドクササ>を差し引いても着用する必要性を説明します。
足底装具作成に必要なリハビリ評価5項目
浮腫の程度と変動を把握
日による変動と日内変動があるか否かを把握します。足底周径で客観的数値を記録しておくと義肢装具士さんとの情報共有がスムーズに行えます。
生活環境にもよりますが利尿剤の使用有無、水分量のイン・アウトを把握できると尚いいです。
足圧分布と足底圧の把握
専用の機器である足圧分布計測装置が必要です。足底圧が足底のどの部位に加わっているのかの問題点が客観的に把握でき、足底装具作成が円滑に行えます。
胼胝と傷部の程度を把握
胼胝と傷部の直径と深さを把握します。胼胝と傷部を写真で撮影し時系列での変化が把握できると情報が共有しやすいです。
足部と足趾の関節可動域の把握
足趾に多くの足圧が加わっている場合ロッカーヒール(爪先があがっている靴)を処方する可能性があります。
足部と足趾の関節可動域制限(拘縮)が生じていると作成の阻害因子となるため把握しておくべき情報です。
足趾と足部の神経障害と筋力の把握
上述した機序で神経障害が進行すると筋収縮が得られない可能性があります。
例えば腓骨神経麻痺が障害されると下垂足を呈するため足尖の保護を更に重要視する必要があります。
腓骨神経麻痺と下垂足の詳細はこちらです。
糖尿病足病変の足底圧分散を図る足底装具一例
足底装具は中敷きであるインソールと靴型装具を組み合わせて足底圧分散を図る方法が主流です。
足底装具の目的は足部の保護と足底圧の分散(トータルコンタクト)を図ることです。
インソール
インソールは足部を保護し衝撃吸収・クッション性を担保することが主な役割です。
足底とインソールの接触面を大きくすることで足圧分散を図るトータルコンタクトが基本的な考え方となります。
インソールの素材はEVAスポンジやPPTスポンジ等複数あります。状況に応じてスポンジを複数層重ね合わせて衝撃吸収を図ります。
詳細は義肢装具士さんと相談してみてください。
靴型装具
靴型装具はインソールと同様に足部を保護し衝撃吸収・クッション性を担保することが主な役割です。
前足部と足趾に過度な足底圧が加わる場合、足先はロッカーヒール(つま先を地面から上げる機能)とトゥボックス(つま先を広げる機能)を組み合わせます。
踵部に過度な足底圧が加わる場合、踵補高を用いて前足部への圧分散を図ります。
踵補高を施した場合、靴底は凹凸を可能な限り減少させ地面との接地面積を拡大しトータルコンタクトを図ります。
足底装具を効果判定するメインアウトカム
足底装具の効果を判定するメインアウトカムは胼胝と創傷が改善し治癒するか否かです。
足底装具を着用することで胼胝や傷が改善してくれば足底装具は役割を全うしています。
作成時に胼胝と創傷が存在しない場合は胼胝と創傷の発生有無がメインアウトカムになります。
週や月単位で経過を追い胼胝や傷が発生しなければ足底装具は役割を全うしています。
まとめ
糖尿病の足病変の潰瘍・壊疽と進行を予防する効果的な足底装具の一例を記載しました。
足底装具は足底圧を分散しトータルコンタクトを図る役割があります。
足底装具は糖尿病足病変に対し有用なアプローチ方法ですが足底圧の分散値が低いと傷や胼胝が改善しない可能性があります。
その際は、足底装具に加え松葉杖の使用等上肢を駆使し免荷を図る必要があります。