腓骨神経麻痺を呈すると股関節・膝関節屈曲角度が増大する歩様「鶏歩」が生じます。
鶏歩はトゥクリアランスを確保し転倒を予防するための歩行戦略です。
今回は鶏歩の概要・機序と歩様改善のリハビリアプローチについて記載します。
目次
腓骨神経麻痺で下垂足が生じる機序
腓骨神経麻痺で下垂足が生じる機序を述べるためには、腓骨神経の分岐・支配筋・支配感覚を知る必要があります。以下に順序だてて記載します。
腓骨神経の分岐
坐骨神経から分枝した総腓骨神経は膝窩で腓骨頭後方を通過します。
その後、総腓骨神経は以下の2つに分岐します。
・深腓骨神経
・浅腓骨神経
総腓骨神経は皮膚の直下にある為、外部からの圧迫影響を受けやすい神経です。
正座後に足が一過性に痺れるのは腓骨神経の圧迫が理由です。
腓骨神経の筋支配領域
腓骨神経が支配する筋を以下に述べます。
総腓骨神経支配
・大腿二頭筋
深腓骨神経支配
・前脛骨筋
・長母趾伸筋
・長趾伸筋
・短母趾伸筋
・短趾伸筋
・第三腓骨筋
浅腓骨神経支配
・長腓骨筋
・短腓骨筋
腓骨神経の感覚支配領域
下腿外側・足背・足趾背側(第5趾外側以外)の感覚を支配します。
腓骨神経麻痺で下垂足を呈する理由
腓骨神経麻痺を呈すると上述した支配神経の筋収縮が不十分もしくは困難となります。
前脛骨筋を主動作筋とした足関節背屈筋の筋収縮困難により足関節底屈位となり下垂足を呈します。
下垂足を呈した状態では、裸足歩行の麻痺側遊脚期を通じたトゥクリアランス確保が課題点となります。
トゥドラックが生じずに歩行を遂行するには麻痺側遊脚期で股関節・膝関節屈曲角度を増大させトゥクリアランスを確保する必要があります。
この足を高く上げる異常歩行が「鶏歩」です。
鶏歩は異常歩行の中でも転倒リスクが高い歩様です。
装具療法や前脛骨筋の筋収縮を促通し早期に歩様改善を図ることが望ましいです。
鶏歩の下垂足を改善するリハビリ
上述したように鶏歩は、腓骨神経麻痺出現下でトゥクリアランスを確保し転倒を予防するための歩行戦略です。
そのため歩様を改善するには腓骨神経麻痺にアプローチする必要があります。
腓骨神経に対するリハビリアプローチは完全麻痺と不全麻痺でリハビリアプローチが異なることが大きな特徴です。
腓骨神経が完全麻痺の場合
支配筋の筋収縮を得ることは困難です。
そのため、装具療法で足関節背屈を保障しつつ、装具使用下での生活指導の実施がリハビリアプローチ主軸となります。
装具は重量が軽いプラスチックタイプが望ましいです。
日常生活上、背屈固定のみで生活可能であればオルトップかSHBでも十分ですが、屋外にて坂道の昇降等行うのであれば角度調整が可能なPDC等が望ましいと思います。
オルトップと比較しPDCは重量が重い点がデメリットです。
可能な限りデモンストレーションを実施してから装具作成することを推奨します。
短下肢装具に関する詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
主に脳卒中の方が対象ですが、長下肢装具に関する詳細はこちらです。
腓骨神経が不全麻痺の場合
背屈主動作筋である前脛骨筋へのアプローチを積極的に行う必要があります。
はじめに低周波治療(電気刺激療法)を実施して筋収縮を促通させます。
最近では以下のような家庭用の低周波治療器も普及しています。
筋収縮促通の低周波治療は目安として50Hz前後の強さで15分程度実施します。
麻痺や筋委縮の程度は個人差があるため痛みが強く出現しないように負荷と時間を調整しリスク管理の下実施してください。
私の低周波治療に関する理解が深まった一冊がこちらです。
随意収縮が可能となったら筋力増強練習とまたぎ動作練習を実施し歩行の麻痺側遊脚期を通じたトゥクリアランスを確保します。
前脛骨筋の具体的な筋力増強練習としては、椅子座位で麻痺側足部のつま先あげを自動運動で行う方法が挙げられます。
練習の際に非麻痺側下肢の体重で負荷を加えると運動負荷量が増大します。
またぎ動作練習では対象足部のPsw~LRを中心に行います。
設定として前方か側方に鏡を設置します。麻痺側遊脚期を通じたトゥクリアランスの保持とヒールロッカー機能の担保を意識し、視覚でフィードバックします。
課題難易度が低い平行棒から開始し徐々に課題難易度をあげる方法が望ましいです。
またぐ物品の高さを徐々に高くし難易度を調整します。
腓骨神経麻痺を呈する可能性がある疾患
①Charcot-Marie-Tooth病
②ポリオ(麻痺型)
③糖尿病(前脛骨筋麻痺)
まとめ
鶏歩の概要・機序と歩様改善のリハビリアプローチについて記載しました。
鶏歩は腓骨神経麻痺出現下でトゥクリアランスを確保し転倒を予防するための歩行戦略です。
しかし異常歩行の中でも転倒リスクが高い歩様のため、歩様改善のアプローチは重要です。
腓骨神経完全麻痺に対しては装具療法、不全麻痺に対しては前脛骨筋の筋収縮促通とリハビリアプローチが異なる点は覚えておくべきポイントです。