自転車エルゴメーターとは膝関節に過度な負担をかけずに筋力増強と有酸素運動が行える運動負荷機器です。
変形性膝関節症等、膝痛を有する疾患への筋力増強練習・有酸素運動の手法としてリハビリ臨床上高頻度に使用されます。
今回は自転車エルゴメーターの使い方と臨床での使用感について記載します。
目次
自転車エルゴメーターの使用方法
自転車エルゴメーターの効果や目的は以下の7項目で決定します。
①タイプ選択
②強度
③時間
④回転速度
⑤回転の方向
⑥サドルの高さ
⑦パワーアシスト
タイプ選択
①のタイプ選択は、負荷が漸増するタイプか負荷が一定のタイプいずれかを選択します。
負荷が漸増するタイプは心肺運動負荷試験で用いられます。筋力増強や有酸素運動目的であれば負荷が一定のタイプを選択します。
強度
②の強度は自転車のペダルの重さ(負荷量)です。
対象の年齢や疾患により異なるため一概には記載できませんが、簡易的な計測として自覚的運動強度であるBorg Scaleが用いられます。
原型BorgScaleは、6~20までの数字を用い自覚的運動強度を15段階で評価することが可能な指標です。
6~20までの数字を10倍した値が運動時の心拍数とほぼ同等の数値となります。
時間
③の時間は連続駆動時間です。
対象の年齢や疾患により異なるため一概には記載できませんが、臨床上、高齢者を対象にするのであれば10分前後の連続駆動時間が一般的です。
回転速度
④の回転速度はそのままの意味です。
負荷が一定の場合、回転速度が速い方が筋活動は増大します。
理由はシンプルですが、回転速度が速くなれば時間に対する回転数が増大し、それに比例して求心性収縮・遠心性収縮を促せる回数が増大するからです。
回転方向
⑤の回転方向は正回転か逆回転かです。
自転車エルゴメーターの種類によっては逆回転が行えないため注意が必要です。
サドルの高さ
⑥のサドルの高さはそのままの意味です。
サドルを低くすれば股関節・膝関節の屈曲角度が増大し、高くすれば屈曲角度は減少します。
パワーアシスト
⑦のパワーアシストはモーターの力で他動的にペダルを回転させるアシスト機能です。
自転車エルゴメーターの種類によってはパワーアシストがないため注意が必要です。
自転車エルゴメーターの効果
大腿四頭筋、特に内側広筋の筋委縮予防・筋力増強効果
赤筋繊維が豊富な内側広筋は加齢に伴い筋委縮しやすく、筋委縮により変形性膝関節症(O脚)を助長させます。
自転車エルゴメーターの駆動は歩行と比較し3~5倍程度内側広筋が筋活動するため筋力増強練習方法として適しています。
また自転車エルゴメーターはサドルとペダルで体重分配するため、膝関節にかかる負担を著減できます。
そのため変形性膝関節症等、膝痛を有する疾患でも実施可能な場合が多いです。
変形性膝関節症の病態生理とリハビリの詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
自転車エルゴメーター後に膝痛が出現した場合、以下の4項目を調節することで痛みが軽減・消失することが多いです。
・負荷量
・時間
・回転数
・サドルの高さ
有酸素運動による運動耐容能と心拍出量の増大効果
運動耐容能とは「どの程度運動に耐えることができるかの能力」です。
運動耐容能が低い人は強度が低い運動でも疲れます。
運動耐容能が低いとすぐに体内は酸素欠乏状態となります。
酸素欠乏状態下に加え心拍出量、1回拍出量(心室が1回で拍出する血液量)の低下を認めると以下の方法で酸素供給を代償し心負荷が増大します。
・呼吸回数の増大
・心拍数の増大
自転車エルゴメーターによる有酸素運動には
・運動耐容能の改善
・心拍出量の増大
効果があり心負荷の軽減が期待できます。
年齢や疾患により異なりますが、一般的に有酸素運動を効率的に行うには、原型BorgScaleの数字10~13前後の「楽である~ややきつい」が良い基準とされています。
自転車エルゴメーターは病院に設置されているイメージが強いですが、在宅でも以下のような自転車エルゴメーター機器を用いた有酸素運動が可能です。
値段が安価な分、逆回転やパワーアシスト機能はついていませんが変形性膝関節症の方や運動耐用能が低下されている方の自主練習としての機能は十分あります。
パワーアシスト機能による麻痺側大腿四頭筋の筋出力・筋力増強効果
パワーアシスト機能を用いることで重度脳卒中片麻痺者においても、非麻痺側の過剰努力が生じずに麻痺側大腿四頭筋の筋出力・筋力向上が図ることが可能です。
パワーアシスト機能がない自転車エルゴメーターで脳卒中片麻痺者が駆動を行う場合は、非麻痺側の過剰努力による連合反応の出現に十分注意が必要です。
脳卒中で筋緊張が亢進するメカニズムとリハビリ治療の詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
リハビリ臨床上での自転車エルゴメーター使用感
リハビリでの対象頻度が多い変形性膝関節症者に対しほぼ実施しました。
個別性が大きいですが膝関節に低負担となる負荷量・時間から開始し炎症が生じない範囲で徐々に負荷量と時間を増大させていました。
また脳卒中片麻痺者の麻痺側大腿四頭筋の筋出力向上目的で多用しました。
パワーアシスト機能を用い正回転から開始します。
経過にて徐々にパワーアシスト機能を消失させ、連合反応と筋緊張亢進を是正しつつ正回転駆動による筋力増強を図ります。
軽症例で正回転駆動では強負荷に値しない場合、逆回転を導入し運動負荷量の増大を図りました。
まとめ
自転車エルゴメーターの使い方と臨床での使用感について記載しました。
幅広い疾患に導入可能な点と筋力増強練習と有酸素運動を同時並行で行える点が大きなメリットです。
自転車エルゴメーター自体はシンプルな運動負荷機器ですが、運動強度・時間・回転速度・回転方向などを組み合わせることで選択肢が幅広くなるため是非活用してみてください。