バランス感覚低下やバランス能力低下を認める対象者に理学療法士はバランストレーニングを実施する頻度が高いです。
今回はリハビリの対象頻度が多い高齢者でも行いやすいバランストレーニングを19種類紹介します。
比較的、課題難易度が調整しやすいバランストレーニングをピックアップしました。
また紹介するバランストレーニングのほとんどが器具不要で行えます。
必要に応じて臨床で活用して頂ければ幸いです。
目次
バランストレーニングの目的と効果
バランス能力とは、身体重心の投影点を安定性限界範囲内・予測的安定性限界範囲内に保持する能力のことです。
保持能力が低下した場合、バランス能力低下と判断します。
バランスの判定基準である安定性限界の詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
バランストレーニングの主目的はバランス能力向上です。
そしてバランストレーニングはバランス能力を向上する以下の3つの効果があります。
①身体重心動揺の制御
②安定性限界域の拡大
③予測的安定性限界域の拡大
そのためバランストレーニングは①~③を複合的に実施する必要があります。
バランス感覚(能力)を効果的に鍛えるための原則
バランス感覚、バランス能力を効果的に鍛えるためにはバランストレーニングの課題難易度調節が必須です。
具体的にはバランストレーニングの課題難易度は保有する能力に対し少し難しいレベルに調整するとより効果的です。
課題難易度の調整は補助具の選定などの環境調整を主軸に行います。
例えばステップ練習の支持物を平行棒からT-caneに変更するなどが挙げられます。
課題難易度の上昇に比例し転倒のリスクも上昇します。
バランス練習を実施する際はリスク管理を徹底し、特に転倒に留意し実施してください。
高齢者向け器具不要のベッド上バランストレーニング
四つ這いとダイアゴナル
目的:四つ這い位で支持基底面を狭小化した状態下で身体重心動揺を制御する練習です。
方法:ベッド上で四つ這いとなり、一側上肢と対側下肢を挙上します。脊柱起立筋、多裂筋の筋力増強練習としても有用な方法です。
課題難易度を上げる場合は同側下肢を水平に挙上します。
課題難易度を下げる場合は一側上肢もしくは一側下肢のみ挙上します。
膝立ち位での前方リーチと側方リーチ
目的:両膝立ち位で前方と側方への安定性限界を拡大する練習です。
方法:両膝立ち位、骨盤中間位で肩を屈曲もしくは外転90度にします。腕の位置がさがらないようにしつつ前方もしくは左右側方へリーチします。
膝立ち位での前後歩きと横歩き
目的:両膝立ち位で安定性限界を狭小化させた状態下にて身体重心動揺を制御しつつ前後左右の予測的安定性限界を拡大する練習です。
方法:両膝立ち位で一側下肢が支持、対側下肢の振り出しにより前後左右への移動を行います。
大殿筋・中殿筋の筋力増強練習としても有用な方法です。
高齢者向け器具不要の座位バランストレーニング
座位での前方リーチ
目的:座位で前方方向への安定性限界を拡大する練習です。
方法:背筋を伸ばし、肩を屈曲90度にします。腕の位置が下がらないようにしつつ体を前方に前傾します。
座位での側方リーチ
目的:座位で側方方向への安定性限界を拡大する練習です。
方法:背筋を伸ばし、肩を外転90度にします。腕の位置が下がらないようにしつつ体を側方に倒します。
前後のお尻歩き
座位で安定性限界を狭小化させた状態下で身体重心動揺を制御する練習です。
方法:腕を組みお尻を交互に出し前方移動、後方移動を行います。
高齢者向け立位バランストレーニング
立位での前方リーチ
目的:立位で前方方向への安定性限界を拡大する練習です。
方法:足を肩幅に開き、静的立位の状態で前方へリーチします(他の設定は座位前方リーチと同様です)
立位での側方リーチ
目的:立位で側方方向への安定性限界を拡大する練習です。
方法:足を肩幅に開き、静的立位の状態で側方へリーチします(他の設定は座位側方リーチと同様です)
片脚立ち
目的:立位で安定性限界を狭小化させた状態下で身体重心動揺を制御する練習です。
方法:両手を腰にあて、片足の股関節・膝関節を屈曲させ離地します。
片足立位時間を計測する場合は約5cm離地させ、離地した足が着地するか足の場所がずれたら終了します。
概ね左右2回計測し最大値を算出する方法が選択されます。
片脚立位時間は、開眼状態で20秒以下、閉眼状態で5秒以下だと転倒リスクが高い状態です。
開眼状態で5秒以下の場合、転倒の危険性は極めて高い状態です。
タンデム立位とタンデム歩行
目的:立位で左右方向の安定性限界を狭小化させた状態下で身体重心動揺を制御する練習です。
方法:一側の踵に対側のつま先を接地させ保持します。
ステップ練習
目的:立位で前後左右あらゆる方向の予測的安定性限界を拡大する練習です。
方法:一側下肢で支持し、対側下肢を予測的安定性限界の拡大を図る方向へステップします。
横歩きと後ろ歩き
目的:立位で安定性限界を狭小化させた状態下で身体重心動揺を制御しつつ側方・後方の予測的安定性限界を拡大する練習です。
方法:立位で左右側方、後方への応用歩行練習を実施します。
特に後ろ歩きは易転倒性を認める方が多いため注意が必要です。
前方と側方へのまたぎ動作
目的:立位で安定性限界を狭小化させた状態下で身体重心動揺を制御しつつ前方、側方への予測的安定性限界を拡大する練習です。
方法:立位で前方・側方へのまたぎ動作を障害物に衝突しないよう実施します。
まとめ
リハビリの対象頻度が高い高齢者でも行いやすいバランストレーニングを19種類紹介しました。
課題難易度を調整したバランス練習で身体重心動揺の制御、安定性限界域の拡大、予測的安定性限界域の拡大を図り転倒予防に努めましょう。