脳卒中後に遷延する意識障害はリハビリ目標を阻害する重要因子です。
そのため意識障害は問題点の抽出においても最上位に位置づけられることが多いです。
今回は脳卒中で生じる意識障害の症状と原因、改善を図る具体的リハビリ方法を4種紹介します。
目次
意識障害の概要と症状
意識障害の定義は必ずしも一定しておらず厳密には定まっていません。
大まかな意識障害は何らかの原因による意識清明でなくなった状態です。
意識清明は「覚醒しており、かつ視覚や表在感覚などの刺激に対する認識と認識への反応(発声や動作など)が良好な状態」をさします。
意識障害の重症度判定方法はいくつかありますが、臨床上よく使用される方法は以下の2つです。
・Japan Coma Scale
・Glasgow Coma Scale
いずれも感覚刺激の強さに対する反応の出現有無で重症度を判定します。
感覚刺激には強さが存在します。
例えば声掛け刺激よりも痛み刺激の方が強大です。
声掛け刺激では反応しないが痛み刺激で顔をしかめる反応が出現した人と、声掛け刺激で顔をしかめる反応が出現した人がいたと仮定います。
この場合、顔をしかめるという反応は同一ですが痛み刺激より微弱な声掛け刺激で反応が出現した人の方が意識障害は軽症と判断できます。
脳卒中で生じる意識障害の原因
意識障害の原因は大きく2つに分類されます。
・脳卒中などの頭蓋内疾患が要因の場合の一次性
・アレルギーショックなどの頭蓋外疾患が要因の二次性
今回は脳卒中などの頭蓋内疾患が要因で生じる一次性の意識障害に焦点をあて説明します。
人間が意識清明・覚醒を維持できる理由
人間は常に視覚や表在・深部感覚などの感覚神経刺激を身体各部の抹消より入力しています。
これらの感覚入力の一部は前脊髄視床路と脊髄網様体路を通じて上行します。
上行する神経路は小脳へ行く経路と脊髄前角へ下降する経路以外、全て視床に集約されます。
脊髄網様体路は中脳にある巨大細胞性網様体に感覚情報が投影され、そこから視床に存在する髄板内核群に投射されると髄板内核群は興奮します。
髄板内核群は興奮が大脳皮質へ投射されると大脳皮質の神経細胞の活動性が高まり、意識レベルを覚醒で留めることが可能となります。
覚醒の要である巨大細胞性網様体から視床髄板内核群に投射しその興奮を大脳皮質への投影する経路を上行性網様体賦活系といいます。
意識障害の原因は上行性網様体賦活系の障害
上述した上行性網様体賦活系のいずれかに障害が生じると意識障害を呈します。
例えば中脳が障害され巨大細胞性網様体の活動が制限・停止すると視床髄板内核群への投射が障害され意識障害が出現します。
逆もしかりで巨大細胞性網様体から視床髄板内核群への投射が可能でも、興奮を投影する大脳皮質が広範囲に損傷されていれば意識障害が出現します。
このような機序で脳卒中では障害部位により意識障害が出現し損傷範囲により意識障害が重症化・遷延する可能性があります。
脳卒中で生じる意識障害に対するリハビリ
意識障害に対するリハビリは客観的な即時効果が大切
経験上、意識障害が重症化・遷延されている方に対する短期的なリハビリアプローチではJCSやGCSの点数が変化しないことが多いです。
その場合、意識障害に対するリハビリはJCSやGCSに代わる客観的な即時効果が必要だと思います。
例えば20分間の座位練習ではリハビリ終了直後に閉眼したが、20分間の立位練習ではリハビリ終了から10分間開眼し、ご家族とコミュニケーションが図れた等です。
介入時間は限られているので、良好な反応が得られた練習割合を多くすることが重要です。
意識障害へのリハビリアプローチ4選
ティルトテーブルを使用した立位保持練習
ハード面の問題が大きいですが、勤務先にティルトテーブルがあれば活用必須です。
ティルトテーブルのメリットは膝折れの心配なく大腿四頭筋・大殿筋・脊柱起立筋などの伸展筋へ筋収縮を促通することが可能です。
ベルトで各関節を固定するため落下の恐怖感は少なく、120kg前後の人まで立位関連動作が全介助でも立位保持練習が行えます。
角度調整が行えるため課題難易度が調整可能であり、起立性低血圧を是正しつつ立位練習が行えることも大きなメリットです。
デメリットとしては下肢に著しい関節拘縮を認める場合、骨折のリスクや疼痛増大のリスクにより使用困難な可能性があります。
関節拘縮の種類・要因と改善するリハビリの詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
両下肢長下肢装具を使用した立位・歩行練習
長下肢装具の立位・歩行練習はセラピストの介助技術を必要としますが、意識障害を呈し立位で下肢の支持性が得られない方に対して有効です。
足底には感覚受容器が多数存在します。自重による触圧覚が感覚受容器に入力され脳幹網様体を賦活することで意識障害の改善が期待できるアプローチ方法です。
デメリットとしては、装具作成に費用がかかる点です。両下肢に支持性が得られない場合、長下肢装具を2本作成する必要があります。
装具を2本作成する場合、2本目はリハビリ対象者が10割負担しなければなりません。
意識障害の遷延と重症度と患者のADL予後、家族のQOLをよく照らし合わせた上で作成を検討する必要があります。
長下肢装具に関する内容と歩行介助方法の詳細はこちらです 。お時間があったら閲覧ください。
抹消からの感覚入力量増大による相乗効果
抹消からの感覚入力量の増大をさせることで他のアプローチとの相乗効果を図る方法です。
具体的には、立位・歩行練習を実施しつつ家族のよびかけや好きな音楽を聴くなどの聴覚への感覚入力量増大が挙げられます。
立位・歩行練習を実施しつつ家族に手を握っていただくなどの触圧角への感覚入力量増大などを実施し相乗効果を図ります。
座位練習の家族指導
マンパワーによりますが座位保持練習や車椅子離床は可能な限り家族に実施していただくのが望ましいです。
家族が練習を自立可能な見立てがある場合は積極的に家族指導を実施し早期自立を目指します。
その上でセラピストは家族では実施困難な立位練習を主にリハビリを展開することが望ましいと思います。
まとめ
脳卒中で生じる意識障害の症状と原因、改善を図る具体的リハビリ内容を記載しました。
意識レベルは動作を遂行する土台部分です。昏睡状態で介助量の軽減は図ることは困難を極めます。
立位関連動作を主体にリハビリを展開し意識障害の遷延を可能な限り回避することが重要です。