リハビリで対象頻度が高い高齢者の大多数は関節拘縮を有しています。
関節拘縮の進行は日常生活動作の阻害因子に直結するため、関節拘縮の予防が重要視されています。
今回は拘縮の概要と拘縮を予防するリハビリアプローチについて記載します。
拘縮とは?
拘縮とは筋肉の短縮や関節包の癒着等、器質的変化に由来した関節可動域制限のことです。
関節拘縮は以下の5つに分類されます。
①皮膚性拘縮
②靭帯性拘縮
③腱性拘縮
④筋性拘縮
⑤関節性拘縮
このうち筋性拘縮が約40%、関節性拘縮が約50%を占めます。 そのため今回は筋性拘縮と関節性拘縮について主に述べていきます
筋性拘縮が生じる原因
筋性拘縮とは、筋肉を構成する組織の器質的変化に由来した関節拘縮のことです。
筋性拘縮は、筋短縮による関節可動域制限が主要因です。
筋肉は筋繊維という繊維束が密集して構成されており、筋繊維は筋原繊維という繊維束が密集して構成されています。
筋原線維はアクチンフィラメントとミオシンフィラメントからなる筋節がいくつも並んで構成されています。
筋収縮はミオシンフィラメントに対しアクチンフィラメントが滑り込むようにして動くことで生じます。
筋の伸張は逆にミオシンフィラメントに対しアクチンフィラメントが離れるようにして動くことで生じます。
筋節1つ1つが同じ働きをするため、筋節が多い方が筋肉はより伸張しやすいことがイメージできるかと思います。
逆に筋節が減少すると筋線維の伸張性が乏しくなり筋短縮が生じます。筋短縮が長期化すると筋性拘縮が生じます。
つまり筋節の減少が生じなければ筋性短縮の発生を予防できます。
筋性拘縮を改善するリハビリ
筋節を効果的に増大させる方法がストレッチです。
具体的には、スタティックストレッチで筋腱移行部を集中的に伸長させることで筋節を効果的に増大させることが可能です。
スタティックストレッチは、他動的に関節固定した状態下で対象筋を約30秒~60秒、最大伸長位で筋伸長させる方法です。
スタティックストレッチ実施中、最大伸張位で対象筋を等尺性収縮させることで筋腱移行部を効率的に伸張させることができます。
理由は錘内筋繊維とゴルジ腱器官の作用が主です。
ストレッチでは他動的な筋伸長が生じます。
過度な筋伸長は筋断裂の起因となるため錘内筋繊維がⅠa群繊維を介しa運動ニューロンを発火させ筋収縮が生じます。
上述した状態では、ストレッチによる筋伸長とa運動ニューロンによる筋収縮が拮抗している状態です。
その際に等尺性収縮を行います。
過度な筋収縮は腱断裂の起因となるため筋腱移行部に存在するゴルジ腱器官がⅠb群繊維を介しa運動ニューロンを抑制させ筋収縮が緩和されます。
a運動ニューロンによる筋収縮が緩和されたため、ストレッチによる最大伸長角度が増大し筋腱移行部の伸長が効果的に図れます。
関節性拘縮が生じる原因
関節性拘縮とは、関節包を構成する組織の器質的変化に由来した関節拘縮のことです。
主に関節包の短縮・癒着で生じます。エンドフィールは筋性拘縮より硬度が強い感覚です。
関節包の短縮・癒着は
①関節の不動化
②関節包内炎症後の瘢痕組織置換
の2つの機序で構築されます。
①関節の不動化について説明します。
コラーゲン含有量が多い関節包は、関節の不動化のよる水分量減少に伴い粘張性が低下します。
隣接するコラーゲン繊維間で架橋形成が発生し進行することで関節包が短縮します。
②関節包内炎症後の瘢痕組織置換について説明します。
関節包内の炎症が緩和され腫脹が軽減すると、損傷部位は肉芽形成を経て瘢痕組織へ置換されます。
瘢痕組織は伸張性が乏しいため、瘢痕組織の面積・長さに比例し関節包が短縮します。
関節包内の炎症は変形性疾患で生じます。その理由・機序とリハビリに関する詳細がこちらです。
関節性拘縮を改善するリハビリ
関節包の短縮へは徒手での伸長・モビライゼーションを行います。
具体的には関節を最大伸長位にした状態下で関節間の離開・すべり運動を行います。
関節包端と関節包端の距離が長くなるように離開・すべり運動で伸張させます。
関節包の徒手伸張における時間や頻度に関するエビデンスは確立していないのが現状です。
私見では臨床上、120秒~180秒程度の間持続伸長させると関節包が伸張され関節可動域角度が即時的に改善されることが多いように感じています。
次に関節包の癒着に対するアプローチ方法です。
架橋形成が確立され硬度が高い関節包の癒着は徒手伸長が困難であるため、超音波療法を用いて関節包の伸張性を高めます。
コラーゲン含有量が多い関節包は超音波を吸収しやすく、加温効果が得られやすい特徴があります。
関節包へ温熱効果の超音波を照射した後の徒手伸張は、関節拘縮に対する有効なアプローチ手段の1つとなります。
まとめ
拘縮の中でも高割合を占める筋性拘縮と関節性拘縮の概要・機序・リハビリテーションアプローチに関して記載しました。
拘縮のエンドフィールが骨性でなければ即時的な関節可動域改善が図れる場合が多いです。
即時的でなく持続的な可動域改善を図るためには、新しく得た可動域を反映させた筋収縮練習や動作練習を行い筋・関節包を短縮させない筋力・筋出力を担保する必要があります。