日常生活動作介助量の軽減目的で脳卒中重度片麻痺者に対し早期に長下肢装具を用いた立位・歩行練習をリハビリで展開することが推奨されています。
今回は脳卒中片麻痺者の長下肢装具適応対象と長下肢装具の構成と種類、歩行介助方法、エビデンスに対する一考察を述べます。
目次
脳卒中片麻痺者の長下肢装具適応対象
長下肢装具の主目的は麻痺側大殿筋・大腿四頭筋の筋収縮を促通し麻痺側股関節・膝関節伸展動作(支持性)を確立することです。
そのため、長下肢装具は立位関連動作において麻痺側股関節・膝関節伸展の随意運動がコントロール困難な方が適応対象となります。
具体的には下肢の運動麻痺が重度(BrsⅡ)で立位にて麻痺側膝折れが生じ、長下肢装具を着用しなければ麻痺側大腿四頭筋・臀筋群に十分な筋収縮が入らない場合が適応となります。
長下肢装具は治療用装具として作成することが多いです。
長下肢装具の構成と継手の種類
長下肢装具は足尖から大腿部までの覆う装具です。
膝関節の角度を調節する膝継手と足関節角度を調節する足継手を選択することで狙った筋肉に立位下、自重による筋収縮を促通することが可能です。
膝継手の種類と機能
膝継手には以下の3種類の継手が存在しそれぞれメリット・デメリットがあります。
・リングロック
・ダイヤルロック
・ステップロック
リングロック
強固な継手のため体重制限による制約がないことがメリットです。
デメリットとしては膝関節の角度調整ができない点です。
膝関節屈曲5度固定で作成すると5度以外の角度は選択できません。
ダイヤルロック
メリットは膝関節の角度調節は5度刻みで行える点です。
膝屈曲5度、10度等にダイヤルを設定することで角度変更が可能です。
デメリットとしては体重制限(80~90kg未満)による制約と起立動作等の動作練習に反映できない点が挙げられます。
ステップロック
膝関節の角度調節を5度刻みで行え、起立動作等の動作練習にも反映可能な点がメリットです。
デメリットとしては体重制限(80~90kg未満)による制約です。
立位関連動作のみならず起立動作練習も行えるため体重制限による制約がなければ膝継手はステップロックの選択を推奨します。
足継手の種類と機能
足関節背屈方向のみ角度調節が可能な足継手(シングルクレンザック)と足関節底背屈方向に角度調節が可能な足継手(ダブルクレンザック)が基本です。
近年、足継手の機能は大きく向上しています。足背屈補助や底屈制動などが具体例です。
下腿三頭筋の筋緊張亢進がある程度緩和した状態下での短下肢装具であればこれらの機能を有効的かつ効果的に使用できる可能性があります。
短下肢装具の目的と適応可能な機能の詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
しかし治療用の長下肢装具であれば必ずしも足継手は多機能である必要はないと思います。
下肢装具作成時期では多くの場合、下腿三頭筋の筋緊張亢進しています。
下腿三頭筋の筋緊張が亢進している状態下では足部のコントロールが困難であり、多機能の機能性をうまく生かしきれないことが理由です。
筋緊張亢進のメカニズムとリハビリ治療の詳細はこちらです。
私見で推奨する長下肢装具の種類と継手
長下肢装具は入院から作成時期が早い(概ね2週間、遅くても1ヶ月以内)ため、足部の筋緊張の変化と経過が読みにくいことが難点です。
入院当初は下腿三頭筋が低緊張であっても荷重練習と共に下腿三頭筋の筋緊張が亢進してくるケースは多いです。
そのため経過にて下腿三頭筋の筋緊張が亢進している場合、下腿三頭筋の筋緊張を抑えつつ大殿筋・大腿四頭筋に筋収縮促通可能な装具を作成すべきと考えます。
治療用装具として悩んだ場合、以下の内容にすることで下腿三頭筋の筋緊張を抑える強固な固定性を生み出すことができますので参考にしてみてください。
・装具のタイプ:両側金属支柱付長下肢装具
※足部プラスチックタイプの物では下腿三頭筋の筋緊張を抑制できない可能性があります。
・膝継手:ステップロック
・足継手:ダブルクレンザック
※膝関節・足関節共に固定と遊動の自由調整が可能です。
・シャンク:足尖~踵部まで長さ延長
※シャンクとは足底板に注入する金属です。足関節底屈に対する強度が増大します。
・T-ストラップ:使用
※足部内反を抑制する効果があります。
・トゥスプリング:足尖を床から1cmあげる
※立位関連動作でトゥドラッグが生じ難くなります。
・指枕:使用
※クロートゥの予防を図る効果が期待できます。
間違えなく言えることは、長下肢装具は短下肢装具にカットダウンしないと日常生活で活用する場面が限局化されます。
そのため膝部分にある金属支柱のビスを抜けば短下肢装具に早変わりするカットダウン可能な長下肢装具になるよう義肢装具士さんと相談してください。
短下肢装具も含めた装具療法の知見が深まる一冊がこちらです。
長下肢装具を用いた歩行介助方法
長下肢装具の主目的は麻痺側大殿筋・大腿四頭筋の筋収縮を促通し麻痺側股関節・膝関節伸展動作(支持性)を確立することです。
麻痺側股関節・膝関節伸展動作(支持性)の確立とは随意運動で麻痺側膝関節屈曲伸展がコントロールできることを意味します。
長下肢装具を用いた歩行練習は麻痺側膝関節屈曲伸展をコントロールするための一手法です。
歩行練習開始時の長下肢装具の設定
脳卒中発症直後は大殿筋と大腿四頭筋の筋収縮が特に得られにくいです。 設定は膝関節屈曲5度固定、足関節背屈5度固定で関節の自由度を減らします。
前方もしくは側方に鏡を設置し視覚でフィードバックしつつ、筋収縮のタイミングを運動学習を促します。
介助方法としては後方より体幹過伸展の代償動作を是正しつつ麻痺側下肢の振り出しを介助し、努力性動作に伴う筋緊張亢進を抑制します。
麻痺側IC時に介助で踵接地を誘導します。大腿が外旋位にならないよう注意してください。
麻痺側LR~Mstにかけて大殿筋と大腿四頭筋の筋収縮が得られているか触診で確認します。
歩行練習が課題難易度として高い場合は膝関節屈曲5度固定、足関節背屈5度固定で麻痺側下肢への重心移動練習を行い筋収縮促通します。
関節固定角度は足背屈5度と記載しましたが個人差があります。5度~8度程度で調節し1番筋収縮が得られる角度で練習してください。
大腿四頭筋と大殿筋収縮の筋収縮促通後の長下肢装具設定
大殿筋と大腿四頭筋の筋収縮がある程度促通されると立位、膝関節屈曲5度、麻痺側裸足設定での麻痺側への重心移動で膝折れが出現しなくなります(バックニーは出現) 。
この程度促通されれば課題難易度をあげます。
具体的には足継手を背屈5度~誘導フリーにし膝関節屈曲5度以外の角度で大殿筋・大腿四頭筋の筋収縮を促通します。
前方もしくは側方に鏡を設置し視覚でフィードバックしつつ、筋収縮のタイミングを運動学習を促します。
介助方法としては後方より体幹過伸展の代償動作を是正しつつ麻痺側下肢の振り出しを自動介助運動で行います。
麻痺側IC時に踵接地を誘導します。大腿は中間位で接地します。 麻痺側LR~Mstにかけて大殿筋と大腿四頭筋の筋収縮が得られているか触診で確認します。
短下肢装具へのカットダウン検討
麻痺側膝関節屈曲5度以外の角度で麻痺側下肢に重心移動しても膝折れが生じずある程度コントロール可能となったら短下肢装具への移行を検討します。
長下肢装具のエビデンスに対する一考察
日常生活動作介助量の軽減目的で脳卒中重度片麻痺者に対し早期に長下肢装具を用いた立位・歩行練習をリハビリで展開することが推奨されています。
理論的には上述した機序で大殿筋・大腿四頭筋を中心に筋収縮を促通すれば短下肢装具に移行でき日常生活動作介助量軽減が図れます。
しかし臨床経験上カットダウン可能となった症例数は少ないです。体感としては5~6人に1人程度の割合です。
これは意識障害や注意障害などの高次脳機能障害の残存が主理由だと思います。
脳卒中発症で重度運動麻痺を呈する方は脳も広範囲に損傷されていることが多く高次脳機能障害を有している可能性が高いです。
あくまで経験論ですが高次脳機能障害を有する対象者への長下肢装具を用いた装具療法はカットダウンできない可能性があることは留意しておくべき点です。
仮に長下肢装具がカットダウンできない場合でも有用方法があります。
1つ目の方法は訪問リハビリに繋げることです。リハビリスタッフであれば長下肢装具を着用した動作練習が行え、機能維持に貢献できます。
2つ目の方法は、主目的とは異なりますが定期的に装具を着用させることで股関節・膝関節伸展、足関節背屈の関節可動域維持・拘縮予防を図ることが可能です。
装具着脱をキーパーソンや介助者に介助指導して自立して頂くことでより円滑に拘縮予防が図れます 。
筋性拘縮、関節性拘縮の機序と是正するリハビリの詳細はこちらです。お時間があったら閲覧ください。
まとめ
脳卒中片麻痺者の長下肢装具適応対象と長下肢装具の構成と種類、歩行介助方法、エビデンスに対する一考察を記載しました。
長下肢装具を用いた歩行練習は大殿筋・大腿四頭筋の筋収縮を促通し麻痺側下肢支持性向上に寄与します。
高次脳機能障害が大きく影響しますが、早期より長下肢装具を用いた歩行練習を行い可能な限り早期に麻痺側股関節・膝関節伸展動作(支持性)を確立しましょう。